信託とは
信託とは、人を信じて財産を託す仕組みのことです。
従来では、財産を託された法人などが金融庁等の許認可を得て、サービス商品を開発し、ビジネスとして行う『商事信託』が一般的でした。平成17年に信託法が改正されて、今まで以上に幅広い信託の活用が可能になりました。
個人間の信頼関係を基礎にして、一般の市民や親族がお互いに契約関係を執り行う信託を『民事信託』といいます(営利を目的とせず、継続反復しないことが前提です)。
中でも、家族の誰かが財産の預り手(財産管理をする者:受託者)となり、「高齢の父母や障害者」のための財産管理や、様々な状況の変化に対応した柔軟な資産活用・承継を実現しようとする信託の手法が、徐々に広まってきました。
民事信託の仕組み
登場人物は、「委託者」「受託者」「受益者」の三者です。民事信託の場合、「委託者」「受託者」「受益者」はそれぞれ親族等で設定します。
「委託者」が自分の財産を「受託者」に移転し、「受託者」は委託者から託された目的に従って財産の管理・運用・処分を行います。「委託者」が「受託者」に移転した財産を「信託財産」といいます。「受益者」は、その財産から得られる利益を受け取ります。その権利を「受益権」といいます。そして受益者は「受託者」を監督することができます。
これらの信託のルールに則って「信託契約書」をまとめます。
商事信託との違い
商事信託は、いわばプロが関わって信託を使ったサービスを提供することです。信託会社や信託銀行が受託者となって広く一般消費者に投資信託や、今でいえば教育資金贈与信託などの商品を販売します。その際の信託報酬や手数料等が信託会社等の収益となります。
民事信託は、信託のプロを入れずに親族間で信託の仕組みを取り入れようとするものです。一回限りかつ非営利目的なので、活用の許可等は不要、プロに支払うコストも低減できます。
民事信託の特徴
従来の手法の範囲内では解決しきれなかった相続対策や事業承継の解決策が、民事信託活用の新たな視点を加えることで、解決に向けた選択肢が広がります。 委託者が自分の財産をどのように引き継がせたいかを後世まできちんと伝えるため、「信託」という契約関係を親族内で結びます。それによって、信託財産を目的に沿う形で生存中から死亡後までの管理・運用・処分等の仕組みを信託契約で整えることができます。それによって、信託による以下のような特徴的な機能が現れます。
- 信託財産は、受託者の名義になりますが、受託者は信託財産を自由に処分することはできず、信託の目的に沿った範囲での管理運用になります。その結果、信託財産は受託者固有の財産とは区別された取り扱いを受けます。
- 受益者は、受託者に対して信託の目的に従った信託財産の管理・処分を行うことについての一定の行為を求める権利を取得します。
- 委託者や受託者が、信託財産に関係のないことで多額の債務を負っても、信託財産は差押えられません。
ただし、信託財産の管理で負う債務(例:不動産の修繕費)に対する強制執行や受益者が倒産した際の受益権の差押えについては可能となります。
民事信託の活用ケースとメリット
- 財産を守るため、2~3世代先の相続の順番を予め決めることができます
- 高齢資産家の資産を安心して財産管理・運用できます
- 共有名義の相続不動産のトラブルを信託の仕組みで回避することが可能です
- 信託の活用で、不動産の流通税コストを抑えることができます
- オーナーの意向に沿った円滑な中小企業の事業承継対策が打てます
- 障害をもつ子のいる家庭における福祉型の信託が行えます
- 国際結婚、子連れ婚、後妻等による財産流出が予防できます
- 家族みんなで将来の設計図を考えるきっかけとして活用できます
民事信託活用の留意点
- 遺言や成年後見にしかできないこともあり、制度や機能も違います。併用や連動させる活用もありますので、専門家と相談しながら進めましょう。
- 信託契約により形式的に名義が移動するという点で、場合によってはオーナーの心理的抵抗感を招くケースもあります。
- 受託者に信託契約の目的に沿った管理運用能力や信頼性が備わっているかが、重要なポイントになります。
民事信託と他のスキームの比較
民事信託以外の手法 | 民事信託ならば… | |
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遺言 | 遺言は、オーナーの死後にどう財産を分け与えるかを意思表示するものです。生前における財産管理の方法や、不動産を相続した相続人(例えば長男)が死亡した場合の相続人について、指定することはできません。その補完として遺言信託(遺言の中に信託を組み込む)や遺言代用信託(遺言に代わって信託に用いる)などの手法が使われます。 | 民事信託により、オーナーの死後、受益権を承継した者(たとえば長男)が死亡したときに、次に受益権を承継する者(例えば孫娘)を指定できます。 ただし、将来に事情が大きく変わったとき(例えば、孫娘が長男より早く亡くなる等)に備えて契約内容に留意するか、途中で変更できる余地を残す必要があります。 |
成年後見制度 | 成年後見制度の主旨は被後見人の法律行為の支援や本人擁護にあります。オーナーの財産を守るために厳格な取り決めがありますが、子供や孫へ大事な資産をどう渡すかといった対策まではカバーされません。民事信託はその役割を補完する機能があります。民事信託との併用による更なる効果も考えられます。 | 信託の目的に従って、委託者(オーナー)の信託財産を受託者が自由に管理・運用・処分を行うことが可能です。また、成年後見制度はオーナーの死後により終了しますが、民事信託なら契約内容の設定次第で引き続き継続することが可能ですので、将来を見据えた仕組みを整える際も有効です。 |
任意後見制度 | オーナーが判断能力を有している間に、将来自分の判断能力が不十分になったときの後見事務の内容と後見人を、事前に公証人役場で任意後見人契約で決めておく制度です。成年後見人制度に比べ自由度が高まりますが、死後の処理については一定の内容以上のことはできません。また、手続きの迅速性に欠けます。 | 民事信託は生前における取り決めから死後に至るまで、信託の目的に従い自由に設定できます。また、親族間のみの契約締結なので、手続きも基本的には迅速に進行できます(遅滞等は当事者間の調整に影響される形になります)。 |
生前贈与 | 財産の生前贈与は相続対策として有効な手段ですが、例えば不動産による収益でオーナーの生活を確保していた場合、それ以外の収入の手当が必要になります。また贈与税の納税対策も必要です。 | 生前の財産分与を信託の仕組みの中で実現できます。生前贈与では、カバーしきれないリスクも、民事信託における契約の設定によって、いろんな要望を組み込めます。ただし、民事信託においても課税関係等、税務対応を視野に入れた準備が求められます。経験豊富な専門家と相談しながら進めてください。 |